暑さに負けない  高温耐性品種のお米  PART 2 

昨年産のお米(令和5年産米)は猛暑の影響による高温障害で白未熟粒や胴割れ粒・着色粒などの発生があり、新潟県ではコシヒカリが1等米比率5%と過去最低となるなど各地で等級比率の低下が見られ、お米が脆く、精米の歩留りが低くなり米穀業者を悩ませました。

地球的規模での温暖化が進んでいて、今年のお米に昨年と同じ事が起きないとは言えず、2年続きの被害が出てからでは対応が後手になってしまいます。
そこで当店では、次の時代のお米の生産状況や農業農村の生産現場を見据え、お客様にご案内してきました提携米を振り返り、初心に戻り改めて見直しました。

「生きることは食べること」  それはつまり “ 食は命 ” であり “ 食は命の糧 ” ということ。

したがって、生産と消費の間をとりもつ者として “農と食といのち” は一丁目一番地であり、お互い様の関係を築き安定生産・安定供給を図ることが生産者・消費者にとって一番良い方法と考えております。
これを “見える化” するのは難しく当初からの課題ではありますが、昨年の猛暑においてお米の等級低下・品質低下が見られた中でも1等米比率が90%という高水準を維持し、且つ良食味のお米(暑さに負けず高温に強い高温耐性品種のお米)があったことを踏まえ、先ずは今後につきましては、今まで皆様と共に応援してきました各地の提携米の取扱いは継続しながら、暑さに負けない高温耐性品種のお米の取扱いが出来るよう産地・生産者にお願いし、新たに増やしながら安定生産・安定供給をを図ることに致しました。

そうしたことから、昨年の猛暑のなかで1等米比率が88%~93%と高かったお米を選択し、年明けから試食を重ねて参りました。
その結果、今まで取扱ってきました高温耐性品種のお米「山形・つや姫」と「富山・富富富(ふふふ)」に加え、令和6年の秋から新たに高温耐性品種のお米3品種を提携米としてご案内できる運びとなりました。
つきましては、下記の通りお知らせ申し上げます。

① 富山県産 「てんたかく」 ‥‥ 新米入荷 9月上旬
②  〃〃  「てんこもり」 ‥‥  〃〃  10月中旬
③ 秋田県産 「サキホコレ」 ‥‥  〃〃  10月中旬

本年産米(令和6年産)の価格につきましては、生産資材(飼肥料・燃油)や光熱費・物流費などが高騰していることを考慮し、農家さん(生産者)の暮らしが成り立ち、これからも作り続けられる再生産可能な価格を収穫の目安が付く稲刈り時期の前後に話し合って決めます。
値上げとなった節は、何卒ご理解のほど賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

暑さに強い 「高温耐性品種のお米」

気象庁は、今年2023年(令和5)3月の平均気温は41都道府県で過去最高となり、観測史上最も暖かい3月と発表しました。さらに4月の平均気温も東北と北日本は1946年の統計開始以来、4月としては83年と並ぶ最高記録となったと発表しました。
いまから今夏の暑さが心配されますが、温暖化の影響は既に我が国の農業・水産業に顕著に現れています。
水産業では、海水温の上昇により魚の回遊やノリ・ホタテの養殖に大きな影響を及ぼしています。果樹では、リンゴ・ブドウの着色不良やミカンの浮き皮・日焼けが、そして畜産では乳用牛の乳量や鶏の産卵率の低下等々が指摘されています。

水稲(米)も同様で、登熟期の暑さなどが影響して白未熟粒や胴割れ粒など品質の低下したお米が各地で表面化し、温暖化による高温障害が深刻な問題となっています。
当店で取扱う提携米においても令和元年産の新潟県産コシヒカリで、その翌年の令和2年産には福島県産のコシヒカリで高温障害の影響が見られ、被害はもう既に身近に起きていると実感させられました。

今までの水稲の育種・開発を振り返ってみますと、寒さに対応した品種改良や低タンパク質化・低アミロース化を推進してきたように思います。
そしてその後、温暖化の影響が見られ始めてからは各県で暑さに強く障害が起きにくいお米=高温耐性品種への開発が進められ、導入産地では栽培技術の普及に取り組んでいます。
品種別に見ますと、主食用では「にこまる」・「つや姫」・「きぬむすめ」・「おいでまい」・「彩のきずな」等々数多くデビューしています。
また主食用では無いのですが、日本酒を造る時に使用する “酒造好適米(酒米)” にも高温耐性品種が開発されているようです。

こうした温暖化状況下において、現在当店で取扱う「暑さに強く障害が起きにくい “高温耐性品種のお米” 」は、① 山形・南陽おいしいお米の会の「つや姫」と ② 富山・黒部 林さんの「富富富(ふふふ)」の2品種で、双方とも食味が良くお勧めのお米です。

尚、当店HP “富山・林さん” の紹介ページにおいて “富富富(ふふふ)” を開発した富山県農業研究所のインタビュー動画 「気候変動に負けない強い米」がご覧頂けます。
研究者の情熱と開発の意義が伝わる必見動画です。是非ご一見下さい。

イネの生育 と 気温 ≪令和4年版≫

2022年(令和4)、気温(気象)のデータ収集を始めました。 この収集は米騒動が起きた平成5年以降から行っている私独自の<自己流チェック法>です。「お米の収穫に影響を及ぼす気温」について少し専門的になりますが、イネの生育ステージ の説明を交えながら、お米の収穫の判断目安としているチェック事項を公開します。   

平均気温(平年値)との差を比較する

イネは低温に弱く、長く続くと不稔モミ(実がならない)が発生します。逆に、高温の日が長く続くと白未熟粒(お米の一部が白くなる)が発生し易くなります。 

私はこの危険を早期に察するために、毎日の最高気温と最低気温において平年値との差を比較し、写真のように一定以上の気温差がある時に目視で分かるよう色塗りし、危険となる事象を察する資料データとしています。

  平年との差が +4℃以上は ピンク色

  平年との差が ー4℃~ ー4.9℃は 黄色

  平年との差が ー5℃以下は 水色

 【補足】 一番右列の水色は「雨」をチェック

気温データの利用法  チェック事項は?

(1) 低温

① 田植え後 5月中・下旬の 「活着期」 と 「分げつ期」

低温・日照不足が続くと、茎が細く軟弱になり、倒伏し易くなる。

② 7月上・中旬の 「幼穂形成始期・えい花分化期・幼穂形成期・減数分裂期」

この期間は “お米の赤ちゃん” が育つ大事な時期なので、低温に最も弱い時期です。平均気温が20度以下、また夜温(最低気温)で16度以下の日が長く続くと、不完全なえい花や 花粉の奇形が発生し、不稔になります。

③ 8月上旬の 「出穂・開花期」

この期間も平均気温が20度以下、夜温で16度以下の低温日が長く続くと、花粉管の伸長が 停止し、花粉は受精能力を失うため、不稔モミ(実が入らない)が多く発生します。    

【低温が続く時の一般的対策】

イネの幼穂を保護する為に、田んぼの水を深くする「深水管理」をします。

深水の目安は、幼穂形成期(出穂前20~25日)で10cm以上。                      減数分裂期(出穂前8~15日)で15~20cm以上と言われています。  

(2) 高温(猛暑)

お米は亜熱帯性の植物ですので暑さには強いですが、近年のような猛暑には影響が出ます。

出穂後20日間の最高気温が平均31~32度以上、また同期間の最低気温(夜温)が平均23~24度以上になると、白未熟粒(お米の一部が白くなる)や胴割粒が発生し易くなります。                                   白未熟粒となったお米の味は変わりませんが、大量に発生すると規格外というお米になり、 農家さんの収入が大きく減少します。

高温障害への対策

水稲や果樹・野菜・花き・乳用牛など、日本の農業生産現場に地球温暖化の影響と見られる 高温障害の発生リスクが高まっています。

水稲(お米)では、白未熟粒や粒の充実不足、そして胴割粒などです。これらの対応策として国内では、高温に強い「高温耐性品種」の研究・開発が進められ、現在では各県で育種され、ブランド米として流通・販売されています。 

戸辺米穀店で取扱う “ 高温耐性品種 ” の提携米は2品種、山形・南陽おいしいお米の会さんの「つや姫」と 富山・林さんの「富富富 (ふふふ) 」です。今後はさらに地球温暖化がもたらす影響を見据え、新たな高温耐性品種米をご案内できるよう準備を進めています。

(3) 台風

9月は台風の時期ですので、発生したら台風情報を収集して進路等を注意します。

自然の力には逆らえないですが、田んぼが冠水したり、稲が倒れるなどの被害に遭うと品質や収量に影響が出てしまいます。                            また、病気の発生が懸念されます。

おまけ

専門用語が並びますが、田植え ~ 収穫までの期間をイネの生育に沿いながら、その生育過程を説明させて頂きます。(事例は、関東甲信越・南東北)

イネの生育ステージ

育苗期     

4月上旬~   苗代期 ‥‥ 種籾を発芽させ、苗床に播種して苗づくりをする期間。

分げつ伸長期

5月上旬~   田植え    

5月中旬~   活着期 ‥‥ 田植え後、苗が根付くまでの期間

5月下旬~  分げつ期 ‥‥ 草丈を伸ばし茎数を増やす期間(木でいう、枝分かれの事)

穂づくり期

6月末 ~  幼穂形成始期 ‥ 茎の生長点に穂の基になる幼穂(1mm位)が作られる期間

7月上旬 ~  えい花分化期 ‥ 枝梗の先にイネの花のつぼみが出来る期間。

               えい花とはイネの花のことで、それが一粒一粒の籾になる。 

7月中旬 ~   幼穂形成期 ‥ 幼穂が5mm位になると形成期と言う。(出穂18日前)

        減数分裂期 ‥ 染色体の数が半分になる細胞分裂期のこと。

               花粉などの生殖細胞が作られる。(出穂12日前)

7月下旬 ~  穂ばらみ期 ‥ 幼穂が徐々に大きくなる期間。(出穂6日前)

結 実 期

「お米の花」 (出穂・開花)
雄しべ6本、(中央に)雌しべ

8月上旬 ~ 出穂・開花期 ‥ 穂が出て、お米の花が咲く時期(開花の適温は30度)

8月中旬 ~    乳熟期 ‥ モミの中に乳状の実が入る時期

9月上旬 ~ 黄熟・完熟期 ‥ 実が熟してきて重くなり、黄金色に稲穂が垂れる時期

9月下旬 ~    成熟期 ‥ 稲刈り(収穫)

【適期刈取日の目安】

玄米の光沢を良くし、品質を高めるためには適期に刈り取ることが重要なのですが、農家さんは何を目安にして稲刈りを始めるのでしょうか。経験からと言うのもあるでしょうが、以下の3点を目安にしている様です。 

① 出穂してから     40 ~ 50日後

② 出穂後の積算温度  950 ~ 1100度

③ 稲の葉色を見る   色落ちしたら (濃い緑 ➜ うす緑になる) 

収穫を待つ稲穂
稲刈り

★★☆☆

長い説明になりましたが、最後までお読み下さり有り難うございます。

私たちの食卓に上がる “美味しい農産物” の背景には「自然を相手に頑張っている農家さんがいる」、という事に気が付いて下されば幸いです。                    そして今後、国内の生産者を応援して下さると、より嬉しく思います。

尚、本文は、2019年7月19日に投稿したコラム “イネの生育と気温(気象)との関係” の内容をより判り易くし、理解して頂くために再編集いたしました。

 

イネの生育 と 気温(気象)との関係

冷夏なのだろうか?
令和になって2か月が過ぎた2019年7月中旬、気象庁は東北の太平洋側や関東各県で気温の低い状態が 7/20頃まで続くとして農作物の管理に注意を呼び掛けています。
また メディアは、20日連続して日照時間が少なく例年の 1/10だと各局が報道。
さらに、平成5年の冷夏の再来か?と賑やかになっている。

「今年、お米は大丈夫?」 
毎日流れるメディアの報道で、お客様からは心配の声が出てきましたので、
私が平成5年以降から行なってる簡単な《チェック法》を公開します。

誰にでも出来る、私のチェック法

① 先ず、以下の基礎知識を覚えて下さい。
  これが判断基準の重要事項となります。

5月に田植えをした東北・関東甲信越において、6月末~7月の「イネの生育ステージ (期間)」を専門用語で言うと「幼穂形成始期から減数分裂期」に該当します。

この期間は、イネの茎の生長点に穂の元となる幼穂 や 花粉が作られます。
つまり “お米の赤ちゃん” が育つ大事な時なので、低温にもっとも弱い時期となります。
平均気温が20℃以下、また夜温(最低気温)で17℃以下の日が続くと、「えい花」 や
「花粉」が障害を受けて不稔(実がならない)になります。
《 えい花 》とは イネの花のことで、それが「一粒一粒 の 籾(モミ)」になります。
と いう事で、これらの点をしっかり覚えておいて下さい。

尚、低温が続いた時の一般的な対策は、イネの幼穂を保護する為に田んぼの水を深くする
“深水管理” です。
深水の目安は、幼穂形成期(出穂前 20~25日)で10㎝以上。
減数分裂期(出穂前 8~15日)で15~20㎝以上と言われています。

② 私が行なっている “チェック法”

一般紙の新聞の社会面に全国のお天気が載っていますので、毎日切り抜きします。
私はこれをハガキ用のファイルに入れ、5~9月分を保存します。

右記は、
令和元年 7/6 ~ 7/13分のページ

左記は、令和元年 7月7日(七夕)の切り抜き。

私はこのお天気情報をそのままファイルに入れる
のでは無く、平年との気温差をチェックし、目視で見易くするため蛍光ペンで色付けしてからファイルに保存します。

平年との温度差の色分けは、最高気温・最低気温双方とも下記の通りです。

平年との差が  +4℃以上は ピンク色

平年との差が  -4℃ ~ -4.9℃は 黄色

平年との差が  -5℃以下は 水色

【補足】一番右列の水色は「雨」をチェックする

★☆ ここで一番の重要ポイントは、黄色・水色で色分けした温度 ☆★

何故なら、①で述べたように平均気温が20℃以下、夜温(最低気温)が17℃以下の日が長く続くと不稔(実がならない)となる恐れがあり、イネの生育に要注意となるからです。

③ 結論 ‥ 現時点 7/18 において、令和元年産のお米はどう判断すれば良いか?

色付けした黄色・水色の温度を詳しく見ると、平年より -5℃以下の日が多くあるけれど、その時の最高気温が20℃以下の日が数日間続く所は殆どありません。
また、提携生産者に天候や稲の様子を尋ねたり、生育チェックを兼ねて店の脇に設置した “ミニ田んぼ ”(本文初めの写真、7/20 現在の苗丈 90cm)などを加味して考えると、
「令和元年産のお米に関して、現時点においては冷夏の状況では無い」と思います。

但し、都心では20日連続で日照時間が3時間に満たない日が更新され、梅雨明けが遅れ、東日本を中心に続く今年の日照不足は初めての事象なので、お米への影響は予測がつきません。
なので、日照不足で生育が遅れて価格が高騰している野菜・果実同様、お米も自然相手で光合成により育つ作物なので、どんな品質で収穫されるのかという不安はあります。
けれど「出穂~開花~成熟へと進む お米の生育ステージ」は 未だこれからです。

農家さんと話をすると “お天道様次第” とよく聞かされますが、天候に恵まれることが何よりです。
異常気象と言われる今日、生・消ともに常に天候への注意を心掛けて行きましょう。

④ 今後の おコメ生育ステージ、そして注意点

田んぼに植えた “イネの苗” 。

7月下旬までは
「体をつくる “穂づくり期間” 」でしたが、

8月からは
「おコメの子孫をつくる “結実期” 」という
 生育ステージに入ります。

良い機会ですので、少し詳しく、またおコメに
影響する事項などを含め説明させて頂きます。
      (事例は、関東甲信越・南東北) 

7月下旬  穂ばらみ期‥‥ 幼穂が徐々に大きくなる期間 (出穂6日位前)  

8月上旬~  出穂期 ‥‥ 穂が出始める期間
 〃〃    開花期 ‥‥ 穂が出て、花が咲く期間 (開花の適温は30℃)

9月下旬~  成熟期 ‥‥ 稲刈り(収穫)

敵期刈取日の目安について

玄米の光沢を良くし、品質を高めるためには適期に刈り取ることが重要なのですが、
農家さんは何を目安にして稲刈りを始めるのでしょうか。
経験からと言うのもあるでしょうが、以下の3点を目安にしている様です。

          ①  出穂してから     40 ~ 50日後
          ②  出穂後の積算温度  950 ~ 1100度
          ③  稲の葉色を見る   色落したら


結実期の注意点

低温

お分かりの様に、8~9月は穂が出て花が咲きモミの中に実が入る時期(=結実期)です。
①と同じく低温に注意しなければなりません。
繰り返しますが、平均気温が20℃以下、夜温(最低気温)が17℃以下の日が続くと、 結実期では「不稔モミ」(モミの中に実が入らない)が多く発生します。

高温(猛暑)

もともと亜熱帯性の植物ですので、暑さには強いです。
しかし、昨年(平成30)のような猛暑となると影響がでます。

お米は出穂後20日間のあいだ長く高温に晒されると、白未熟粒(お米の一部が白くなる)が発生し易くなります。
白未熟粒の味は変わりませんが、大量に発生すると規格外というお米になり、農家の収入は大きく減ります。

台風

更に、9月は台風の時期ですので、発生したら台風情報を収集して注意します。
自然の力には逆らえないですが、田んぼが冠水したり、稲が倒れるなどがあると
品質や収量に影響が出てしまいます。
また、病気の発生が懸念されます。

★★☆☆
  最後までお読み下さり、ありがとうございました。
  長い説明になってしまいましたが、お役に立てましたでしょうか。

  そして、私たちの食卓に上る “美味しい農産物の背景” には、自然を相手に
  頑張っている “農家さんが居る” という事に気が付いて下されば幸いです。

  今後ともよろしくお願い致します。