(a) 我が国の食料・農業の動向
1. 農業就業者 (2020年 農水省統計より)
65歳以上の高齢者 70.2 %
49歳以下の若年層 10.8 %
※ 5年ごとに実施される農林業センサスの結果によると、農業就業者人口は毎年減り続け、そのうち仕事として自営農業に従事している基幹的農業従事者は、2015年の175.7万人から2020年には136.3万人となり、5年間で約23%減っています。そしてそれは今後さらに加速すると推測されます。
2. 耕作放棄地 (2015年農水省統計より)
42.3万ha (我が国の農地面積 約430万ha)
※ 耕作放棄地とは、以前耕地ではあったもので。過去1年以上作物を栽培せず、しかもこの数年間の間に再び耕作する意思の無い土地をいう。(農林業センサスより)
原因は、最近の農産物の価格低迷や高齢化・後継者不足などの理由で、農業をリタイアする人が増えたことが挙げられます。
3. 品目別自給率 (2021年 食料需給表より)
<コメ> 98%
4. 食料自給率 (カロリーベース 2023年度)
38% (14年連続40%割れ)
※ 食料自給率とは、国内で消費される食料のうち、どの程度が国内産でまかなわれるかを示した指標です。 先進国では最低となっています。
5. 穀物自給率 (食用+飼料用)
28%
(b) 農家が生活できなければ田畑の耕作放棄。一番困るのは誰?
私たちのいのちの源である我が国の食の営みは、国土の持つ地的条件から小農的な 家族農業者の人たちによって支えられてきました。 それは、過去に生きたすべての人々の、 現代に生きるすべての人々の、 そして未来を生きるであろうすべての人々のいのちを守ってくれる大切な人達です。 しかし、彼ら農業者はコメや野菜などの農作物を作るだけの生産工場者ではなく、 私たちが家族と一緒に暮らしているように彼らも家族と一緒に暮らしています。 ですから収穫した農作物の出荷価格が安く抑えられ、収入が減り生活できなくなれば 農業者は自分たち家族のためだけに農作物を作り、それ以外の田畑は耕作を放棄してしまうでしょう。
地球的規模での人口増加や異常気象、環境破壊等により世界的な食糧不足が予測されている中で、 我が国の農業者が耕作放棄して一番困るのは、実は自分たちでは作ることの出来ない都会の生活者(消費者)なのです。
したがって、農業者の生産コストや生活を軽視し、市場原理に任せて相場のように変動する価格を取り入れ 一方的に決めるのではなく、「農業者の暮らしが成り立ち、来年も再来年も作り続けることが出来、 且つ消費者も安定した適正な価格で食べ続けることが出来る決め方・関係づくり」が農業者・生活者 (消費者)の双方の”いのち”と”暮らし”を守れる方法と思います。 さらにこうした関係は、安心して食べられる食の自給・地域社会や文化の維持等々、 それぞれのあるべき姿を見直し、モノと人と自然が調和する循環社会へと繋がることと思います。
(c)生産者との話し合い。 お米の価格は?
今まで全国各地の産地を訪ね生産者と話を交わしてきました。 さすがにコメづくりのプロですので自らの米づくりの会話には熱が入り、いつも延々と聞かされます。 けれど、ご自分で作ったお米の原価を尋ねると意外と知らない方が多いのに驚かされます。
けれど、私たちが年間契約している『提携米 ⇒ 生産者の家族も食べているお米』は、 生産者がこれからも作り続けられる価格(再生産可能な価格)を話し合って決めるため、 生産者が自分のお米の生産原価を知らないと話が進みません。
そこで平成8年、用意した 「再生産可能な価格の試算表」 に”米生産の物財費”と”労働費” の計算書2点を添え提携生産者に郵送、記入後に返却して頂き、それを基に話し合うことにしました。 それは従来とは異なり、お米の価格の決め方を市場動向から切り離し、農業経営が成り立ち作り 続けることが出来る再生産可能な価格へ向けての一歩でした。
再生産可能な価格の試算表における算出項目の内訳は大きく分けると、
1. 生産コスト
2. 農業経営上の生活保障費
3. 国土環境保全費(環境コスト)
になります。 その一つ生産コストは郵送した米生産の物財費計算書から算出され、二つ目の農業経営上の生活保障費は 同じく郵送した労働費の計算書から算出されます。 そして環境コストとなる三つ目の国土環境保全費は今まで生産費のなかに隠されていた部分を表に出し その役割を認知させるという初めての試みです。
それは『国土・環境に負荷させない土づくり、安心して食べられる米づくり(農産物づくり)を行ない、 農業を持続することにより私たちの”いのち”(食糧自給の維持、水や緑の保守保全など)を守り 育む生産者への努力の報い』を認知計上する提案となりました。
しかしこの提案は、平成8年当時の提携生産者側と流通業者側の協議により、また消費者の意向・動向を 鑑みることにより、時期尚早との結論に達し、再生産可能な価格の試算表への正式な計上は見送られ、 現在は生産者の収益の項に加味し含むものとするということに留まっています。 提携の関係のなかで価格についての話し合いはお互いに辛い部分ではありますが、大切なことは、 物を手にした価格だけで判断せず、その裏側に秘めている生産者の思いを受け止め、それを自分たちの 生活に組み込み、農業に基盤をもった暮らしづくり、社会的に意味のある将来計画を生消がしっかりと持ち、 理解し合い・支え合っていく関係づくりではないかと思います。 それは、未来を担う子や孫たちに”いのち”を繋げることになるからです。
【追伸】
ここで述べた再生産可能な価格の取り組みについては、
家串哲生著 「農業における環境会計の理論と実践」(農林統計協会)
に、数字をあげて詳しく紹介されていますので、興味ある方はお読み下さい。
(d)再生産可能な価格の試算に必要な項目
更新履歴
21.09.26 : 「(a) 我が国の食料・農業の動向」 のデータを更新
更新前のデータは以下に残しておきます。
1. 農業就業者 59%は、65歳以上の高齢者 (39歳以下は9.6万人)
2. 39万ha (2005年 農林業白書より)
不作付け地 28万ha (2000年 うち水田は21万ha)
3. 食料自給率 39% (カロリーベース)
4. 穀物自給率 27% (食用+飼料用)